データ利活用で世界を切り拓く海外スタートアップ

データを利活用する新しいビジネスを考えるには、世界の「いま」を学ぶことが大切です。スタートアップが盛んなアメリカやイスラエルといった国々で生まれる最先端の試みを、日本のビジネスシーンにも応用できるかもしれません。
この記事では海外発の先進的なスタートアップ5社をご紹介します。海外の投資家たちが将来性を認め、世界中に影響を及ぼしつつあるユニコーン企業たちの例から、そのアイディアを学んでみましょう。
Explorium――機械学習モデル作成のためのデータプラットフォーム
イスラエル発のExploriumは、市場予測分析や機械学習モデル強化のためのデータプラットフォームを提供しています。
データサイエンティストやデータアナリストにとって、分析やモデル作成に必要なデータを見つけるのには時間が掛かります。その上、せっかく見つけたデータが本当に役に立つとは限りませんし、いまある課題に今後も役に立つものであり続けるという保証もありません。そのうえ、サードパーティが提供する外部データを取得・利用するには法規制を遵守するよう気を配る必要があります。
Exploriumの提供するプラットフォームでは、そういったデータの検索から利用までの作業をAIによって自動化し、ユーザーに提供しています。これによって分析やモデル作成にかかる時間を短縮してコストを削減することができ、コンプライアンス違反の心配もありません。
公式HPの動画では、「データのリッチ化」「予測モデルの作成」「顧客・リードリストの作成」の機能を実際にプラットフォーム上で利用する様子を見ることができます。
■参考:イスラエルの「データアナリティクス企業」Exploriumが33億円調達 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
Writer――ファクトチェックができる企業向け文章生成AI
Writerは企業・組織向けに特化した文章生成AIを提供しています。ChatGPTのように人間の与えた指示に従って文章を自動作成できるだけでなく、組織のブランディングに沿う文章を生成するようにモデルを強化することができることが特色です。公式サイトの説明には「内容、文体、ストーリーガイド、キー単語、そしてコアとなるメッセージ」を学習し、「あなたのように」コンテンツを生成できる、とあります。
魅力的な広報・PRができるだけではなく、営業活動におけるメールやプレゼン資料等にも強力なツールとなりうることが理解いただけるでしょう。利用している企業の欄には、Spotifyやアクセンチュアといった大企業が名を連ねています。しかし、その人気を支える優れた機能がもうひとつあります。それは、ファクトチェックです。
ChatGPT等のサービスは創造性が高く、一からコンテンツを制作する際には大きな助けとなる一方で、しばしば存在しないURLや書名等を生成することが問題となっています。それに対して、Writerの個々のユーザーのためにカスタマイズされたAIは、ユーザーが提供する既存のPDFや動画などのコンテンツ等を読み込み学習をしています。Writerの生み出す文章は「どのソースから導き出されているか」という紐づけがなされている「事実」です。そのため、企業活動に適しているのです。
■参考:中東出身の移民2人が生んだジェネレーティブAI「Writer」の野望 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
Cumulo――すべての場所にあるファイルをひとつのサービスから開く
多くの会社では、オンプレミスのファイルサーバー(NAS)やGoogle Cloudといったクラウドサービスでデータを管理していると思います。社員が普段の企業活動を通して作成するテキストや画像等の成果物も、塵も積もれば恐ろしいデータのサイズになります。また、センシング技術の発達によりリアルタイムで取得・更新される非構造化データともなればデータサイズも膨大になり、管理も容易ではありません。
Qumuloが提供するのはSDS(ソフトウェアディファインドストレージ)というサービスの一種です。細かい説明は省きますが、組織の所有するすべてのデータにQumuloを通してアクセスできるようになる、というサービスです。自社サーバーのファイルにもクラウド上のファイルにも同じ画面からアクセスすることができ、しかも便利で分かりやすいGUIやデータアナリティクス機能を備えています。
様々な特徴のある類似サービスも続々とリリースされている中で、Qumuloの持つ強みはその「速度」にあるようです。小規模な組織のストレージとして利用してもペタバイトのデータセンターとして利用しても同じ速度でアクセスが可能です。またクラウドストレージの管理にもオンプレミス型やハイブリット型(自社サーバーシステムとクラウドを併用する方式)のサーバー管理にも対応する柔軟さが好評の理由かもしれません。
Monte Carlo――データの信頼性をモニターする
21世紀のビジネスにとって「データは石油」である、というのはこのnoteでもしばしば使うたとえですが、一方でデータにはいまだ石油のような加工や精製のプロセスが確立していません。機械学習モデルの学習に品質の悪いデータを使用してしまったら? あるいはデータの分析を誤りを含んだデータで実施してしまったら? どういう結果になるか、おわかりですね。
アメリカのMonte Carlo社は、データに存在する欠損や間違いなどを「データのダウンタイム」と呼び、それをモニタリングするサービスを展開しています。同社のサービスを利用すると、機械学習モデルにより「ダウンタイム」を検知し、インシデントが発生した場合はSlack等のチャンネルにアラートを流すようなワークフローを簡単に作成することができます(参考:同社サイト記事)
多くのサービスがデータドリブンを指向するなかで、安定したデータの供給に関する問題は今後徐々に顕在化していくことでしょう。今後もMonte Carlo社の「データの信頼性」に対する取組みから目が離せませんね。
■余談:サイバーエージェント社のエンジニアの方が「データの品質劣化の検知」(品質劣化は「データの信頼性」を損なう大きな要因です)について素晴らしい記事を書かれていました! ご紹介します:データオブザーバビリティでデータの品質劣化を検知する
CHEQ――ウェブ・マーケティングを攻撃や汚染から守る
CHEQはGTM(Go-to-Marketing、市場進出戦略)に関するセキュリティ・サービスを提供するイスラエルの企業です。アメリカと英国、そして日本オフィスがあります(日本語公式サイト)。「ボットの検出」「ユーザー検証」「行動分析」等を通して、BOT等の不正なユーザーによるマーケティングの妨害を防ぎます。
同社の布施一樹氏(東アジア事業統括ゼネラルマネージャー)によると、現在のマーケティングはBOTによる影響を大きく受けていると言われています。BOTによる不正アクセスや転売商品の購入はウェブ広告といったペイドマーケティングに被害をもたらすばかりでなく、購入や行動ログのデータを汚染して企業の(人間のユーザーに向けた)マーケティングにも影響をもたらします。(参照:布施氏インタビュー)
また、公式サイトには競合他社からの妨害等によりリード数やクリック数をBOTにより嵩増しされてしまう「リード獲得詐欺」「クリック詐欺」といった詐欺の事例が紹介されています。もしこういった攻撃によってマーケティングを攪乱され、企業全体が間違った方向へと進んでしまえば、その損失は図り知れません。
不正アクセスや攻撃の手法は、ますます高度になっていくばかりです。エンジニア不足が叫ばれる現代で、組織やそのサービスを自分たちの力だけで保護することは容易ではないはずです。CHEQの提供するサービスは、あなたの強力な助けとなるかもしれません。
まとめ
今回は、データ活用の領域でユニークなソリューションを提供するスタートアップを紹介しました。これらの企業は、データの管理、信頼性の保証、そしてセキュリティ強化など、現代のデータ活用における課題に取り組み、企業のデジタル変革をリードしています。
AI(人工知能)のようなテクノロジーが驚くべき速さで進歩し続けている今、そのテクノロジーをうまく使いこなすための技術もまた、ビジネスの必需品となっています。データドリブンビジネスの新時代を切り拓くスタートアップの挑戦に、今後も注目していきたいですね。
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